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体やセッションにまつわるあれこれを書いています。

アイダ・ロルフ博士 fascia(筋膜) 呼吸する 歩く
手を伸ばす 頭を支える コアとライン


   

創始者アイダ・P・ロルフ博士


   

ロルフィングは、生化学者のアイダ・P・ロルフ博士(1895〜1979)が創始しました。

博士は、コロンビア大学を卒業して、ロックフェラー研究所で化学療法の研究者として働き、退職後は主婦をしていました。

過去に、オステオパシーやヨガ、ホメオパシーなどを学んでいましたが、当初は他人に施術を行ってはいませんでした。

その博士が施術の道に入ったのは、息子ために見つけたピアノ教師が、怪我で両手が使えなかったことがきっかけです。 

いろいろな医者にみせても症状が改善されないので、ピアノを教えるのを断念していた彼女に、試しに施術をしたところ、驚異的に症状が改善されたのです。 

そのことが評判を呼んで、博士の元には、たちまち施術の依頼が殺到するようになりました。

ロルフ博士が行ったことは、自身の言葉によると、「体のある部分に秩序が失われているのが見えたので、そこに秩序をもたらした」ことです。

それがやがて、柔組織をゆるめてそれが本来あるべき位置に収まると体が1つにまとまり始める、というロルフィングの基本原理に発展しました。

ロルフ博士に「見えた」身体の内なる秩序を回復させること、これがロルフィングの起源です。

   


歩く

ロルフィングの施術が焦点を合わせているのは、「束・バンド」という意味を持つ「fascia」という組織です。

「fascia」の日本語訳は「筋膜」ですが、筋肉だけに限定された組織ではなく、厳密に言えば膜でもありません。

狭義の膜組織というのは、細胞が境界面に沿って互いに密接して並んでいる組織ですが、「fascia」の組織は、構成する細胞の間に広い空間があり、ここに骨組みとなるコラーゲンなどの線維や、たくさんの水分を引きつけているヒアルロン酸などの基質と呼ばれる各種の物質や組織液などが充満しています。

組成によって質感が大きく異なりますが、「腱」、「靭帯」、「皮下脂肪」の組織、神経を包む「神経鞘」、血管を包む「血管鞘」、骨を包む「骨膜」、内臓を包む「漿膜下筋膜」なども同じ「fascia」の組織です。

「fascia」組織は、体内の空間を充たし、あらゆる器官をつなぐように広がっているので、ロルフ博士はこの「fascia」を「構造の器官」と呼びました。

ロルフィングは早くから「fascia」の重要性に注目してきましたが、当初はあまり注目されていなかったようです。

よく目にする解剖図では、赤い筋肉などがむき出しに描かれていますが、それは「fascia」を取り除いた姿です。
「fascia」は、臓器を観察するために、取り除かなければならない部分として扱われてきました。

しかし近年は、「fascia」の重要性が注目され始め、様々な研究が行われるようになっています。

ロルフィングで注目している「fascia」の可塑性とは、圧力などを加えることによって柔軟性が変化するということです。
これには、組織中の水分が関与していると考えられてきました。
つまり、含まれる水分の量が変化することで、固さや柔軟性が変化するということです。

近年、Rolf Instituteを中心に行われた研究でも、「fascia」の組織に一定時間のストレッチをを繰り返すたびに、まるでスポンジに水が吸い込まれるように、組織中に含まれる水分量が増し、柔軟性が回復されることが確認されています。

また、「fascia」組織の可塑性のその他の要因についても研究が行われています。

例えば、「fascia」の一種である腱や筋周膜などにも平滑筋様の筋線維が見つかっています。
これはつまり、腱や筋肉内の白いスジ(筋周膜)の部分などが、何らかの作用で筋肉のように伸び縮みしているということです。


腱が短かく縮んでしまう「拘縮」という症状がありますが、この研究はその治療にもつながる可能性があります。

またつい最近、ラットの心臓とその血管の周囲をかたどるゼラチン状の「fascia」組織だけを分離し、後からそれに心筋と血管上皮の細胞を注入して培養したところ、 それらの細胞があるべき位置に誘導され、元の4分の1の拍出能力のある心臓を再生することができた、というミネソタ大学の研究が報道されていました。

「fascia」は、できあがった構造を保持するだけでなく、構造を作り出すことにも関わっているという意味での「構造の器官」なのかもしれません。

    


歩く

息を吸う時(安静時の呼吸)には、横隔膜が収縮して下がり、肺の容積が大きくなることによって空気を取り入れます。
そして横隔膜がリラックスして上がり、肺が元の大きさにもどることによって息を吐いています。

そこで、肺を取り囲む胸郭や腹部周囲の組織はできるだけ柔軟性があった方が、肺が風船のように脹らむことができて、楽で深い呼吸ができるはずです。


しかし、腰や背中や胸が、体を支えたりすることのために柱や壁のように固くなってしまうと、楽な呼吸を犠牲にしてしまいます。

「背筋を伸ばして胸を張りましょう」とは、よく耳にする言葉ですが、楽な呼吸のためには、別なやり方で体を支えることが必要になります。


これはテンセグリティー(tensegrity)という構造です。

張力のバランスによって形が保たれている構造で、張力を生むゴムが1本でも切れてしまうと、全体がはじけ飛んでバラバラになってしまいます。
これは、柱のない大空間をより少ない資材で作ることができるので、現代建築に応用されています。

人体の構造にもこのテンセグリティーが当てはまると考えます。
つまり、固い柱を立てて体を支えるのではなく、身体の中心(コア)が拡大しようとする力に構造の保持を任せることができるのです。

10回セッションを通して、テンセグリティーによって体を支えはじめることで、背骨は体を支える柱という重荷から解放されるので、動きを取り戻し、呼吸がより楽になるでしょう。




歩く

コアの筋肉をどう鍛えたら良いかと尋ねられて、ロルフ博士は「適正に呼吸し、適正に歩きなさい」と答えました。

足のアーチ、脊柱のカーブなどの構造に表れているように、2本足で歩くことで獲得したのが現在の人間の姿です。

つまり人間は歩く生き物です。
そして、楽で自然な歩き方とは、その身体構造を生かす歩き方だと考えます。

人間の足には、ゴリラにはないアーチ構造があります。
(ゴリラは手のこぶしを使って歩くので、完全な2足歩行ではありません。)

アーチ構造とは、衝撃を受け止めるクッションであり、推進力を生むバネでもあります。

足に体重を乗せた時に、その力がうまくアーチに乗るような重心の位置を、eye of foot (足の眼)と呼んでいます。
それは、ちょうど脛骨の延長線上の足裏の位置にありますが、その足の眼が地中を見るように歩く時、アーチの構造が最大限に生かされます。

ロルフ博士は、かかとを打つように着地することをヒール・ストライクと呼んで、不自然な歩き方だと考えました。

しかし、筋力や心肺機能のトレーニングを主眼とするウォーキングでは、かかとで着地しつま先で蹴ることを奨励することもあります。
この歩き方は、運動の量を上げることが目的のようなので、ロルフィングの推奨する楽で自然な歩き方とは別のものだと考えています。

また、かかとからの着地を強調しようとすると、足を体幹部の前へ前へと出さなければなりません。
この時に主に使われるのが、大腿四頭筋という、本来は歩行運動の制御(ブレーキ)に使われるべき筋肉です。

例えば、ロケットが前に進むためには、後ろにジェットを噴射しなければなりません。
人間も同様でしょう。

つまり前に進むためには、足を前に出すことではなく、足で大地を踏みしめること、あるいは脚を後方に伸ばすことの方に力点が置かれなければならないと思います。
そしてこうすることで、コアの筋肉である大腰筋のシステムがストレッチされて作動し始めます。

  
        大腰筋    大腿直筋(大腿四頭筋の一部)

この時、後方に伸びた足は、地面からはなれた時、重力によってひとりでにスウィングするように前方へと戻ります。
足のどの部分が先に着地するかわからないくらいに、アーチ全体が着地することで、体の重さを利用して推進力を得ることができます。

山登りの時に、大地を踏むように歩くか、足を前に出すように歩くか、どちらが楽かを試してみると、その疲労度の違いは歴然としています。
大地を踏みしめて、コアの大腰筋を使った方が、楽で楽しいと感じることでしょう。


大腰筋はみぞおちの下から始まっていて、大腰筋をつかって歩くことは、みぞおちあたりにあるエンジンを作動させるような感覚です。
脚が後方に伸びる時に、背骨の前面が広がって伸びる感覚がします。
これがコアの感覚です。

歩きながらこの感覚を育てていくことは、コアから手を伸ばし、頭を支えることの基礎になります。

    


歩く

しなやかな動作は動物を見習いましょう。

泳ぐために、魚はいかにしなやかに背骨を動かしているか。
草原を走るチーターは、しなやかな背骨の動きに、いかに前足と後ろ足を連動させているか。

4本足でしなやかに走る動物参考に、しなやかな手の使い方を考えてみましょう。
そこには、手と大腰筋のシステムを連動させるためのヒントがあります。

まず彼らは、大腰筋のシステムを使って後ろ足を蹴り出し、その推進力を得ています。
後ろ脚は、骨盤を経由して背骨へと、しっかりとした骨の連結を持っているので、その推進力は無駄なく背骨に伝わることができます。

これに対し、前足と胴体の連結は人間よりもゆるくできています。

人間の場合、腕の骨は肩甲骨につながり、肩甲骨はさらに鎖骨によって胴体に連結していますが、犬、猫、牛、馬などの、4本足で速く走る動物では鎖骨が退化して、肩甲骨はただ筋肉によって胴体に張り付けられているようになっているのです。

これによって前足は、地面を蹴ったことによる推進力を伝えるより、胴体との骨の連絡をなくすことによって、着地のショックをふわりと受け止めることに成功しています。

 

これは馬の肩甲骨と胴体を結んでいる筋肉の1つです。

左右の肩甲骨からハンモック状に胴体を吊るしていて、前足が着地する時には、この筋肉がストレッチされて着地の衝撃を受け止めるようになっています。
次に、ストレッチされたこの筋肉が収縮すると、肩甲骨を地面に向って押し出すので、前足が地面を蹴って離陸します。

この筋肉によって肩甲骨を押し出すエネルギーは、ストレッチされたこの筋肉の反動と、後ろ足から背骨に伝わってきた前への推進力です。

つまり、大腰筋によって得られた力が背骨の前面を伝わって胸部に達し、それに加えて肩甲骨を押し出すこの筋肉が働くことで、後ろ足と前足とが連動しているのです。

これは、人間では前鋸筋と呼ばれる筋肉に相当します。


これが収縮すると肩甲骨が脇へと引っ張られ、背中が開く感じがします。
全身と連動させて手を使うためには、この筋肉が重要です。

前鋸筋が働いて肩甲骨が外側に広がりながら手を伸ばすと、体の中心から手に向って順番に拡大していくような動きになります。
反対に、肩の筋肉が収縮して、肩甲骨が中心に寄って来てしまうと、連動が途切れてしまいます。

弓道などの場合、初心者は背中を縮めて、胸だけを開くように弓を引く傾向があるそうです。
これでは上半身と下半身がバラバラになってしまいます。
前鋸筋が働いて、背中が広がったまま胸をひらくことができれば、全身で弓を引くことができるでしょう。

また、この筋肉はboxer muscleとも呼ばれていて、強いパンチを打つための筋肉として重要視されています。

マッサージなども、上半身だけで手を使う場合に比べて、体全体を連動させるように手を使えば、相手への浸透力がちがうでしょう。

前鋸筋を活用して手を伸ばすコツは、手先のことは忘れて、まず肘先を押し出すことです。
この時に背中が広がって、体の中から力が肘先に伝わる感じがしたら、それがコアから連動している印です。
この感覚を磨きましょう。

活性化した大陽筋のシステムに、前鋸筋が連動することによって、コアのサポートはさらに上へとつながっていくでしょう。

    


歩く

首や背中の緊張の度合いは、頭の位置に左右されます。

もしも、頭と同じくらいの重さのボーリングの球が、地面に立てた棒の先に乗っていると仮定すると、その棒が傾くほど、それを支えるためには大きな力が必要になることがわかるでしょう。
反対に棒が直立するほど、つまり頭の重さが体の中心にかかるほど、それを支えている首は楽になるということです。

そこで、楽に頭を支えるためには、頭の位置に影響を及ぼす要因に働きかける必要があります。

身体の下部の構造は、頭の位置に影響します。
例えば、足や骨盤などに起因する傾きやねじれに対応するように、頭がバランスを取っている場合があります。
これに対して、毎回セッションの後半には首への施術を行い、頭の位置が下部構造の変化に適応できるるようにします。

また、頭そのものの構造もその位置に影響を与えています。
そこで7回目のセッションでは、頭蓋仙骨療法のテクニックなどを用いて、頭の立体的な重さのバランスがとれるように、肩〜首、顎、顔面、頭蓋などに施術します。

これらの他にも、知覚が頭の位置に影響を及ぼします。

例えば今、パソコン画面の文字を読んでいる時のあなたの頭の位置は、体幹部よりも前方にあるのではないでしょうか。

それでは次に、画面から意識を移して周囲から聞こえてくる音に耳を傾けてみてください。
頭の位置が、以前よりも後ろに移動したのがわかりますか。

現代社会の生活は、文字などの視覚情報に大きく依存しています。
しかも視野いっぱいにものを見るのではなく、一点に焦点を合わせるような眼の使い方が多いので、頭の位置も前方に偏っていることが多いようです。

10セッションの後半では、「頭頂部で空を見る」などのムーブメントの技法を用いて、あいまいになってしまった頭の中心の位置感覚をはっきりさせます。
その感覚が明確になるほど、頭は休むための位置を得ることができるでしょう。


   


歩く


ロルフィングでは、身体の構造をコア(内側)とスリーブ(外側)に分類しています。
そして、コアの機能を目覚めさせて、内側によって外側を支え、動かすことができるようにすることがロルフィングのゴールです。

10回セッションのレベルでは、コアの活性化のために、背骨の前面に位置する大腰筋のシステムを強調します。
それは、足の裏のeye of footから骨盤底を通り抜け、背骨の前面を沿って頭頂部へと抜ける力の回路が働き始めるということです。

ロルフ博士は、「背骨の前面の組織が目覚めさせられなければならない」と言いました。
(背骨の前面には、交感神経幹などの自律神経が走行していて、大腰筋もここに付着しています。)

コアとスリーブは相対的な分類であり、コアの感覚は成長していくので、コアの感覚がさらに磨かれていくと、それまで内側だと感じたものが、外側に位置すると感じることがあるでしょう。
そこでコアを限定しないために、例えば、コアに「○○筋」などの具体的な構造を当てはめてはいません。

この足裏から頭頂部へと抜けるコアがつながり、身体構造が統合された時に現れるのが「ライン」です。
ラインは、身体の各部分の位置関係が直線上に揃っていても、それが外側(スリーブ)の努力によって達成されている場合には現れません。
それはコアを通り抜ける力のベクトルのようなものですが、客観的に目で見ることができます。

ロルフィングは、身体構造の統合について、このラインという明確な指標を持っています。
これが、ロルフィングが他の手技と異なる特徴であると言えるでしょう。